パニックコメディ Funny Agony


回転撃さん作

〜Ending〜



扉を開けると、中は思った程散らかってはいなかった。といっても、そこで爆発が起こったのか棚はほとんど粉々に大破していた。そして、何とその棚の少し奥にはブリオが倒れていた。
何かがあったことは間違いなさそうだが、ディンゴの脳裏にはどうしてもタイニーが浮かんできてしまうのであった。一応、ブリオにも近づいて話しかけてみる。
「おい、ブリオ起きろ」
返事がない。ただのしかばねのようにも見えるが、さすがに死んでいるわけではないだろう。ディンゴは仕方なくブリオが目を覚ますまでの間、周りを調べて状況を推測する事にした。
まず目につくのはやはり壊れた棚だ。そこにはいくつものフラスコが並べられていたのか時折ガラスの破片も散らばっている。恐らくここに置かれていた薬剤が爆発したのだろう。
しかし、問題はどういう経緯でそれが爆発したかだ。さらに壊れた棚を調べていると、その破片の中に何故か木片や鳥の羽のような物が混じっていた。一体これは何なのだろう。
他にも周辺の物を調べていくが、変わったところと言えばやはり棚周辺の場所だけだった。ブリオに事情を聞けば話は早いのだが、未だに目を覚ます気配がない。そういえば、ディンゴが運んだあの少女は今どうなっているのだろう。
不意にそう思ったディンゴは、部屋の奥にあった扉を見てその扉に手をかけた。
「・・・?」
扉を開けて様子を見てみたが、そこにディンゴが運んだ少女の姿はなかった。他に彼女を寝かせておけそうな場所は見当たらない。とすると、彼女は既に目を覚ましてどこかに移動したということだろうか。
少女がここにおらず、ブリオが気絶して倒れているというこの状況。何か嫌な予感がしてならない。もしかしたらディンゴが思っている以上に事は重大なのかもしれない。念のため、もう一度ブリオを起こそうと試みる。
彼の体を激しく揺さぶってみたりしたが、やはり彼は目を覚まさない。一体何をされたらこれほど見事に気絶できるのだろうか。呆れながらディンゴはブリオを起こすのをあきらめブリオの研究所を出る。

その頃、リラ・ルーはある場所を目指して走っていた。ある場所とは、リラ・ルーがチーズケーキを使って罠を仕掛けた廊下のことだ。ほとんどがタイニーに食べられてしまったが、確かまだわずかに残ったものがあそこに置かれたままのはずだ。
罠としての機能はもう働いていなくとも、もしかしたらそのチーズケーキにつられてネズミが集まっているかもしれない。確証はないが何のあてもなくネズミを探しまわるよりは遥かにマシだろう。
わらにもすがるような思いでリラ・ルーはその場所へと急いだ。そして、間もなくその罠を仕掛けた廊下に着く。
(頼む・・・!おってくれッ・・・!!)
すると、そこには仕掛けていた罠やネズミよりも先に見えた物があった。
「・・・!何やアレ!?」
リラ・ルーが見たのは、エヌ・ジンが作りだした監視ロボットだった。

ディンゴは廊下を走っていると、その向こうからかなり焦った表情でコルテックスとエヌ・ジンがやってきた。コルテックスがこちらに気付くと、即座に話しかけてきた。
「ディンゴ!緊急事態だ!侵入者を捕えろ!」
本人もまだかなり混乱しているらしく、断片的に頭に浮かんだ言葉をそのまま口にしている様子だった。その言葉でディンゴも混乱してしまう。
「ハァ!?何だよいきなり・・・?!一体どうしたってんだ?」
すると、言葉がうまくまとまらないコルテックスに代わってエヌ・ジンがディンゴに説明した。
「拙者の監視ロボが何者かによって改造された。この基地に部外者が侵入した可能性があるのだ。恐らくまだこの基地内のどこかにいるはず・・・おぬしもそいつを探しだして捕えるのだ」
「そういう事だ。厄介なことになる前にさっさと侵入者を捕まえるのだ!」
侵入者、という言葉にディンゴはハッとした。
(まさか、あの女が・・・!)
うかつだった。もしあの少女がその侵入者だったとしたら、自分が侵入を許してしまった張本人であることになる。今にして思えば浜辺で倒れていたのは作戦のうちだったのかもしれない。
そんな考えがディンゴの頭を支配し始めた。
「おい、聞いてるのかディンゴ!」
「あ、あぁ・・・分かった」
そう言うとディンゴは足早にコルテックス達のもとを去った。あまり自分のせいだとは思いたくないが、少なくとも重大な事が起こっているのは事実らしい。

ディンゴに侵入者の事を打ち明けたからか、コルテックスもようやく落ち着きを取り戻したようだった。改めて侵入者の事について考えてみる。
「それにしても、奴らがここに侵入してきたとしてその目的は何なんだ?」
「確かにそれが分かればある程度奴らの居場所も推測できようものですが・・・コルテックス殿の新兵器の破壊というのは?」
「いや、そんなはずはない。あれは情報漏れがないように細心の注意を払って計画を進めてきたんだ・・・だが、万が一にもそれを見つけられたらまずい」
「成程、いずれにせよそこには警戒が必要ですな」
「ああ」
すると、ふいにコルテックスにある事が浮かんできた。
「・・・それとも、まさか奴らめいよいよこの城自体を狙いに来たのか」
この城の存在自体は既に彼らに知られている。考えてみれば、彼らが入ろうと思えばいつでもこちらにやってこれたのかもしれない。
「・・・だとすれば、やはりコルテックス殿の研究所が危険かと」
「エヌ・ジンの研究所も狙われそうだ。現に1体メカが改造されてしまっている。他のもやられたらかなり厄介なことになるぞ」
「では、一旦各々の研究所に戻って様子を見てみる事にしましょう」
「よし、そうしよう」
こうして2人はそれぞれの研究所を目指して二手に分かれていった。

一方、ジョーとコングはモーと合流しネズミを分ける作業をしていた。ジョー達が集めた物とモーが取ってきた物を全て合わせて45匹のネズミが集まった。
「ススするってぇと3人で分けたらちょうど15匹ずつだな」
「どうなんだモー、リラ・ルーはこの短い時間にそれ以上のネズミを集めてくるって可能性は?」
コングが念を押して訊いた。ポーカーでもイカサマをしていた彼が、この賭けでも何か策を用意しているという事は充分に考えられる。
「いや、いくらなんでもこの短い時間で15匹以上も集めるだなんて無理なんだな」
「確かにな。さて、そろそろ時間か・・・フレイの野郎、時間はかるのサボりやがったな」
「まぁいいススさ!これで俺達の勝ちは決まった」
ジョーがそう言ったのをきっかけに3人は立ち上がり、自信に満ちた表情で地下の隠れ家を目指して歩き出した。

その頃、未だアテナを探し続けているクラッシュ達は部屋から部屋へ渡り歩き、現在は調理室の中にいた。
「ハァ〜、お腹すいてきたな〜・・・」
「何呑気な事言ってんの。早くアテナを見つけ出さないと・・・」
ココとクランチがアテナを捜索する中、クラッシュは巨大な冷蔵庫を見つめていた。勿論、いくら彼でもそんなところにアテナがいると思っているわけではない。その中に何か食べ物があるのではないかと高をくくっていたのだ。
クラッシュはついにその冷蔵庫に手をかけ勢いよく扉を開けた。しかし、その中にあった物はクラッシュが期待していた物ではなかった。相当巨大な冷蔵庫なのに中には何の食べ物も入っていない。
クラッシュはがっくりと肩を落としながら唯一奥に残っていた物を取ってみる。
「ちぇっ、何もないや・・・・・・何だろコレ?」
球状の形をした機械のようだが、クラッシュにはそれが何なのか皆目見当もつかなかった。クラッシュはその機械を適当に動かしながら眺めていると、やがてその機械からピッ、という音が出始めた。
等間隔に鳴るその音はまるで数を数えているかのようだ。実は、ある意味で本当に数を数えていたのだが、クラッシュにはそれが分からなかった。すると、ココがクラッシュの持っている謎の機械に気がついた。
「・・・お兄ちゃん?それ何!?」
「分かんない。何か音が鳴ってるけど・・・」
「お兄ちゃん、それ・・・もしかして・・・」
クラッシュがそれをいじっていると、カチッ、という音と共にふたのようなものが外れた。その中には液晶画面のようなものがあり、デジタルの数字が並んでいる。
「あ、何か数字が書いてあるけど、これってもしかして時計かな?」
クラッシュは呑気にそう言ってココ達にそれを見せる。それを見るとココ達は途端に顔が真っ青になった。
「お兄ちゃん、それは多分・・・爆弾よ!」

勿論、いくらコルテックス城だからといって常に冷蔵庫の中に爆弾を仕込んでいるというわけではない。それはクラッシュ達がコルテックス城に侵入する数時間前の事。タイニーはリパー・ルーの研究所を目指して回廊を歩いていた。
リパー・ルーが無理やりタイニーに持っていた箱を持たせて、それを自分の研究所まで持っていくように頼んできたのだ。彼はその後すぐにピョンピョンとはねながらどこかへ去っていってしまい、タイニーは言われた通りに持たされた箱を運ぶ事を余儀なくされた。
仕方なく彼の研究所を目指していると、その途中で不意に箱の中身が何なのかが気になった。箱を開けて中を見てみる。そこには丸い形をした物がいくつも入れられていた。その1つを取り出して見ていると、後ろから声をかけられた。ウォーラスだ。
「よぉタイニー、いい所にいた。ちょっとこの魚を冷蔵庫に入れてきてくれねぇか?」
そう言って彼は巨大な魚をタイニーに突き出し、無理やり彼の手に握らせた。
「いいか、食うんじゃねぇぞ?じゃあな」
そう言い残して彼はすぐにその場を去ってしまった。一体どうしてやたらと自分にこんな雑務が押しつけられるのだろう。そんな事を考える暇さえも与えられずに取り残されたタイニーは仕方なく調理室に向かった。
調理室に入ると、まず目についた第1冷蔵庫の扉を開け、その中に魚を放り込むように乱暴に入れる。するとその時、脇に抱え込んでいたリパー・ルーの箱からいくつかの中身がこぼれ落ちてしまった。
先程タイニーが中身を見たまま箱を開けっぱなしにしてしまっていたのだ。こぼれ落ちた中の物はその冷蔵庫の中へ入ってしまい、奥の方まで転がっていってしまった。そして、それが冷蔵庫の壁まで到達した時、爆発を起こしてしまったのだ。
あまりに突然の出来事にタイニーは驚きを隠せない。状況はよく分からないが、まずい事をしてしまったというのはタイニーにも分かったらしく、彼は急いで調理室を出て行ってしまった。
しかし、タイニーが落とした全ての爆弾が爆発したわけではなかった。不発に終わった爆弾が1つ、冷蔵庫の奥に残っていたのである。それを今、クラッシュが手に取ったというわけだ。

「・・・・・・え、ぇぇぇええええ!?何でこんなとこに爆弾がァアア!?」
「知らないわよ!それより早くそれを何とかしなきゃ!」
改めて画面に表示された残り時間を見てみると、残りはわずか15秒だった。
「オイ、あと15秒しかねぇぞ!どうすんだよ!?」
「ええい、とりあえず・・・!」
何を思ったのかクラッシュは持っていた爆弾を巨大な冷蔵庫の中に思い切り投げつけた。
(何も投げなくてもーーーーー!!)
このクラッシュの行動によって、爆弾は予定より少し早く爆発することになってしまった。冷蔵庫の壁にぶつかった衝撃で爆弾が作動してしまったのだ。しかも、思っていたより爆発が激しい。
何とその爆風によって分厚い冷蔵庫の壁が貫かれてしまった。爆音もかなり大きい。おそらくかなりの距離まで音が響いてしまっただろう。幸いクラッシュ達には何の怪我もなかったが、かなり厄介なことになってしまったのは間違いない。
「・・・どうすんだよコレ」
クランチが静かにそう言ったが、決して冷静といった様子ではなかった。
「とりあえず、一刻も早くここから離れなくちゃ」
ココがそう言うと、3人は爆弾によってできた穴から調理室を出ようとした。すると、その向こうから何者かの声が聞こえてきた。
「何だ!?何かあったのか!?」
そう言いながらその穴を覗いてきたのは、アテナを連れたフレイホークだった。

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