パニックコメディ パニックラッシュ!


回転撃さん作

〜Opening〜



どこからかゴロゴロと雷が落ちる轟音が聞こえてきた。ここワルワルスクールには現在大型低気圧が停滞しており、ここ数日激しい雷雨が降り続いていた。
しかし、そんな雷の音もものともせずに騒がしい笑い声が寮部屋には響いていた。
「・・・このぬめっとしていて、なおかつザラザラした感触・・・まさか、ドクガエル〜ッ!!?」
シド・ブランダーはそう言うと、即座に黒い箱から手を出した。それを見ていたニーナ・コルテックスとナット・プランクは大爆笑だ。
「オイィ!普通こういうのは気持ち悪いけど無害なものを入れるもんだろ!ホントに危ないもの入れてどうするんだよ!」
「キャハハ、大丈夫よ。ちゃんと救急箱を用意してたんだから」
ニーナがソファの後ろに隠すように置いていた救急箱をおもむろに取り出してそう言った。
「そういう問題じゃなぁ〜い!」
その時、勢い余ったシドが何かを踏みつけてしまい、その何かは風船のように寮部屋中を凄まじい速さで飛び回り始めた。
「うわぁっ、何だ!?」
「ついにひっかかったなシド」
「またナットの悪戯発明!?」
それにしても、あの発明品は勢いが良すぎた。シドやニーナ、ナットにまで無差別に飛んできている。さらにそれは部屋の中の家具や発明品にまでぶつかり部屋の中はめちゃくちゃになり始める。
「ちょっ、アタイの発明品が・・・」
その時、部屋に置いてあったニーナの発明品の1つがナットの悪戯品にぶつかり、そのまま部屋の窓を突き破って2つとも激しい風雨の中に飛び込んでいってしまった。
「あああぁぁぁ・・・!!」
ニーナは窓から身を乗りだし、さらに鋼鉄の腕を精一杯伸ばしてみるが、それでもその発明品には届かなかった。ナットとシドは気まずそうにニーナの様子を窺っている。
「あ〜・・・その、今回はやりすぎたよ。悪かったな・・・」
「・・・取って来てよ」
「え?」
「アンタらのせいでアタイの発明品がなくなったんでしょ!責任とって取って来てよ!!」
ニーナは突然振り返り、迫力のある大声でナットとシドを怒鳴りつけた。2人は思わず立ちすくんでしまう。
「そ、そんなこと言ったって無茶だよ。かなり遠くの方まで飛んで行ってたし・・・」
シドは辛うじて弱弱しい小声でニーナにそう言った。
「うるさい!いいからさっさと行ってこい!!」
「は、はい〜;」
ナットとシドは逃げ去るように寮部屋を出ていった。

一方、クラッシュ達はついに黄金リンゴがあるという無人島に到着していた。
「よ〜っし、いよいよだなぁ〜」
軽快な足取りで船から降りたクラッシュは、満面の笑みで奥の森を見つめた。
「待ってろよ〜、黄金リンゴちゃん!」
クラッシュはそう叫びながら全速力で森の中へ駆け込んでいった。
「ああ、ちょっと待って!1人で行ったら迷子に・・・」
そんなココの忠告も空しく、クラッシュの姿は早くも見えなくなってしまった。
「もう・・・お兄ちゃんたら・・・」
「とにかく、僕らも行きましょう」
ぷうが気を取り直すように歩き始めると、ココ達もクラッシュの後を追うようにして森の中に入っていった。
「・・・フフ、こいつはいい。これなら近々どころか今日中にでも計画を実行できそうだ」
その頃、狂科学者クリムゾンの研究所ではいよいよ計画が佳境に入っている様子だった。予想していたよりもかなり順調だ。あとは材料を揃えてそれを大量生産すれば計画は成功したも同然だ。
しかも、その材料の在り処はこの研究所のすぐ近くに埋まっている。というよりも、材料の在り処周辺をそのまま彼の研究所に改造してしまったと言った方が正しい。
クリムゾンは早速その材料を採りに研究室を出ていった。

ココ達が森に入ってから10分程が過ぎたころ、長らく人の手が加えられていない森が少しずつその脅威を現し始めた。多くの巨木が行く手を阻んでいるため、倒木の上を歩くことにした。
倒木の上にはコケがびっしりと生えているので滑りやすい足場になっていた。と、ここでぷうが早速足を滑らせてしまった。
「だっ、あああ!!」
「ああっ、オイ!」
クランチはぷうに手を伸ばすが間に合わず、さらにぷうのすぐ前を歩いていたアニーとアーネストも巻き込んで3人は一気に斜めに傾いた倒木の下へ滑り落ちてしまった。
「ああ・・・行っちゃった・・・;」
ココ達は3人が滑り落ちていく様を見ているしかなかった。倒木に生えている湿ったコケも手伝って3人のスピードはかなりのものだった。そして3人の先には何と高い木が立っていた。
「ぶ、ぶつかるーっ!!」
3人がその木の幹に勢いよくぶつかると、そこからミシミシと何かがきしむような音が森中に響いた。
「・・・何か嫌な予感」
案の定、その音の正体は3人がぶつかった木が倒れる音だった。実はかなり腐敗した木だったのかもしれない。そしてその木はココ達のいる方へ一直線に落ちてくる。
「う、うわーっ!!」
慌てて左右に跳んで木を避けるココ達は巨大な倒木から落ちることになり、結果的に離れ離れになってしまった。さらに、ココとアテナが跳んだ先にはちょうどほら穴のような空間があった。
「・・・え」
2人はそのほら穴の中へ吸い込まれるかのように落ちていってしまった。

一方、クラッシュは完全に迷っていた。もとより道もなければあてもないこの森を1人で歩き回っていれば当然のことだった。
「あれ〜?ここさっきも来たような・・・ココ達もいなくなっちゃったし・・・どうしよう」
360度どこを見回してみても、あるのは大小様々な木々ばかりで黄金リンゴどころかココ達の姿も全く見つける事が出来ない。
「・・・おーい!ココ〜、クランチ〜、アクアク〜!!」
クラッシュは仲間達の名を大声で叫んでみるが、クラッシュの声が哀しく響いてくるだけで彼らの声は聞こえてこない。しばらく森の沈黙を味わうと、クラッシュは急にさびしくなってきた。
「ちょっ、頼むから誰か来てくれぇ〜!!」
するとその時、予想もしていなかった人物が彼の前に現れた。その人物は空からやってきていた。
「何か変な声が聞こえてきたかと思ったら・・・お前はクラッシュ・バンディクーじゃねぇか!」
クラッシュの前に現れたのは、何とコルテックスの部下であるフレイホークだった。
クランチとアクアクは巨大な倒木に囲まれた地面に落ちてしまい、ココやぷう達の所へは簡単に戻れそうになかった。アクアクならこの巨木を飛び越えていけそうだが、クランチを1人にしてはクラッシュの二の舞になりかねない。
「さて、どうしたもんか・・・」
「とりあえずどこかここから出れそうな所を探すか」
そう言って2人は周りを探索し始める。すると、アクアクは倒木の表面を見ていて何かに気付いた様子だった。
「クランチ、ちいとこっちに来るのじゃ」
「何だよ?」
「この倒木、かなり腐敗しているようじゃ。この中は空洞になっているかもしれんぞ」
「成程、つまりこいつをぶち破れば中を通ってここを抜けられるかもしれねぇってことだな?」
「そういうことじゃ」
「よぅし、それなら任せろ!」
そう言うとクランチは右腕を木の表面に軽く当ててから思い切りその木を殴りつけた。すると、その木の表面は見事に砕け散り穴ができた。その奥を見ると、やはりアクアクの睨んだ通り中は空洞になっていた。
「ふぅ、アクアクの言った通りだな」
「さ、中へ入ってみようぞ」
そう言って2人は倒木の中へと足を進めた。

その頃、木の幹に激突してノックダウンしていたぷう達は、ようやく目を覚ましたようだった。
「あれ・・・ここは?」
未だ意識を朦朧とさせたまま起き上ったぷうは、辺りをきょろきょろと見回してようやく自分達の身に何が起こったのかを思い出した。
「ココ達はどこへいっちゃったの・・・?」
アニーが寂しげにつぶやいた。確かに、木に激突した時点で気を失ってしまった3人にはココ達が離れ離れになってしまったいきさつが分からない。
「ま、まさか僕達置いて行かれたんじゃ?!」
ぷうが不安げに声を荒げた。すると、アーネストは自分達が激突した木を見て何かに気付いたようである。
「ちょっと待って、この木・・・僕達がぶつかった木が折れているよ。これはもしかして・・・」
その倒れた木の先を目で追っていくと、どうやら3人は状況を完全に把握したらしい。
「もしかして、アタシ達厄介な事しでかしちゃった・・・?」
「・・・かもしれないね;」
「とりあえず、アタシ達はどうする?」
「バラバラにはなったけど、皆向かっている所は一緒なんだから黄金リンゴの木が生えている場所に行けばそのうち皆と会えるかもしれないよ」
このアーネストの一言に納得したのか、ふいにぷうが立ちあがって言った。
「そうっすね。じゃあ僕らは黄金リンゴを目指して進みますか」
「ああ、今度は気をつけて進まないとね」
アーネストが釘を刺すようにそう言うと、3人は再び進みだした。
ココとアテナはしばらくほら穴の中を転がり、少し大きな空間に出たかと思うとそのまま地面に投げ出されてしまった。
「いたっ!」
「った〜・・・大丈夫ココ?」
「うん、それより皆とはぐれちゃったわね・・・」
ココがそう言うと、2人は自分達が転がってきた坂を見てみた。改めて見てみると、かなり急な斜面である事が分かる。
「あの坂じゃここから登っていけそうにないものね・・・」
アテナがそう言うと、ココは振り返って先の様子を見てみる。どうやらこの先は一本道の洞窟になっているようだ。
「この先に進むしかないみたいだわ。早くここを出て皆と合流しないと」
そう言って2人は洞窟の奥へと足を進めていく。幸いここはかすかに光が入ってきているようで周りの様子は辛うじて見る事が出来た。ということは、この先に外へ出られる穴がある可能性が高い。
すると、奥から何やら不穏な音が聞こえてきた。ココ達は一旦足を止めて、その音に注意を向ける。よく聞くと、それは何者かの呼吸のようだった。その時、ココはあることに思い至りハッとした。
もともとこのほら穴は彼が住むために掘られたものなのではないか。彼とはすなわち熊のことだ。要するに、ここは熊の掘ったほら穴だったのだ。すると、案の定ココ達の前に巨大な熊が現れた。
「で、出たーーーッ!!」
2人の叫び声に反応したのか、熊も迫力満点の大声を上げて2人に襲いかかってきた。ココは何とかその攻撃を避けると、急いで先を目指して走りだした。
「逃げましょ!」
「うん」
2人は出口を目指し必死で走るが、熊のスピードは予想以上のものだった。ココ達と熊の距離は見る見るうちに縮まっていく。
「ヤバい、このままじゃ・・・!」
すると、突然熊が悲痛な叫び声をあげた。何事かと思いココ達は後ろを振り返る。そこにいたのは、地面に横たわっている熊と男の姿だった。あの男が熊を倒してしまったらしい。
「(あの人・・・いつの間にここに?)あの、あなたは・・・?」
男は振り向いたが、前髪で目が隠れており暗い洞窟の中にいる事もあってその表情を窺い知ることはできない。
「・・・お前達はリンゴ目当てか」
リンゴとはこの島の黄金リンゴのことだろう。
「はぁ・・・まぁ、一応・・・」
男の突発的な言葉にココが戸惑い気味にそう答えた。
「フン、手に入ればいいがな」
「・・・はい?」
「え?それってどういう意味ですか?」
しかし、男はそれ以上口を開くことはなく、そのまま奥へ消え去るかのように立ち去ってしまった。2人は顔を見合わせお互い困惑した表情を見せた。
「それより、早くここを出なくちゃ。さっきよりだいぶ明るくなってるから出口は近いはずよ」
ココの言った通り、しばらく歩けばすぐに出口を発見することができた。
「ハァ〜、やっと出れたわね〜」
アテナは外の空気を吸って少しリラックスした様子だった。すると、次の瞬間どこからか激しい風が吹きつけてきた。
「あっ」
気を抜いていたアテナはその突風に持っていた扇子を飛ばされてしまった。扇子は風にあおられ勢いよく宙を舞う。どこまでも、どこまでも飛んで行ってしまいそうな勢いだった。

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