パニックコメディ パニックラッシュ!


回転撃さん作

〜Happening〜



かいつまんで説明すると、ココ達を目指した方向と逆の場所に黄金リンゴがあるらしいのだが、クリムゾンと闘っているうちにその方向感覚を見失ってしまったらしい。
「どうしよう・・・せっかく黄金リンゴの場所を教えてもらったのに」
クラッシュは寂しそうな表情でそう言った。そんな中、ココは落ち着いた様子で口を開く。
「仕方ないわね。まずはクランチ達との合流の方を先に考えましょ」
「でも、その人は早くいかなきゃまずいかもって言ってたんだよ」
「う〜ん・・・それも最悪仕方ないわね」
「え〜〜〜〜〜〜!?」
すると、クラッシュは再び地面に転んでだだをこねる子供のように手足をじたばたと動かし始めた。
「いやだいやだせっかくここまで来たんだ!あきらめるなんて絶対やだ〜〜〜!!」
「ちょっ・・・5歳児じゃないんだから・・・」
これにはさすがのココやアテナもあきれ果てている様子だった。アテナが少し困った表情でココに聞く。
「どうする?」
「しょうがないわね・・・分かったから早いとこ黄金リンゴやクランチ達を探しましょ」
それを聞いたクラッシュは、たちまち地面から起き上がり意気揚々と声を上げた。
「よ〜っし、じゃあ行くぞッ!」
そう言ってクラッシュは1人歩き出していく。そんな彼に2人は思わず小さな声を漏らした。
「立ち直り早ッ」
そうしてから、気がついたように慌てて立ち上がりクラッシュの後を追った。彼を先に行動させては再びはぐれてしまいかねない。
「ちょっと待って!無闇に歩いてもまた迷うだけよ」
「・・・じゃあどうするの?」
ココは少し考えてからある方向を見ながら口を開いた。
「さっき、大きな木が倒れてきたでしょ?あれだけ大きな木が倒れたって事は、きっとあそこでも何かあったのよ。あそこにも誰かがいたのかもしれないわ」
「・・・ってことは?」
「あの木の幹に沿って根本の方に行ってみましょ」
「なるほど!」
こうして、3人は再び巨木が倒れてきた場所に向かって行った。

どこかで爆発音がしたような気がした。たった今自らが切断した左腕を取り付けたクリムゾンはそう感じた。
「まさか・・・!さっきの揺れで反応が起きてしまったのか・・・!くそっ、こんな時に・・・!」
クリムゾンは舌打ちをしながら現場へ向かおうとしたが、直後に思いとどまった。
(いや待て。まだ全てを付けてはいない・・・さっきのようなこともある。ここは万全の態勢にしてから向かった方がいいかもしれん・・・)
そう言ってクリムゾンは再び目の前の実験装置を操作し始める。今のクリムゾンは、実は一部の臓器が取り除かれた状態だった。人間の体は一部が失われると、その穴を埋めようと他の機能が高められたりする事がある。
クリムゾンはそれを利用して、定期的に一部の器官や臓器を取り除いて外部に保存しておくことで他の身体器官の能力を上昇させているのである。取り外す器官をローテーションで入れ替えていけば、最終的には全ての機能が高められるという寸法だ。
それが今、一時的に失われていた彼の左の肺と腎臓の半分が再び彼の体内へと戻っていく。そしてそれが彼の身体に完全に馴染んだ時、彼の顔はほころび始める。
「潰す・・・!」

「ケホッ、ゴホッ・・・ふぅ、ひでぇ目に遭ったな」
その頃、クランチとアクアクは突如謎の爆発を受け、しばらくその場に座り込んでいた。アクアクがいてくれたおかげでクランチへの傷はあまりないようだった。上を見上げれば、そこにあった天井はなくなっていた。
先程の爆発で吹き飛んでしまったのだろう。クランチ達は久々に生の太陽の光を浴びたような気がした。それはそうと、爆発を起こした金属と緑の液体。これは一体何なのだろうか。
爆発前のこの部屋の様子を見る限り、ここは恐らく実験室かその道具を保管しておく倉庫のような部屋だ。ということは、この場所を作ったのは科学者かその類の人物だろうか。
そしてこのような爆発の危険性がある物を保管しているあたり、ますます怪しい雰囲気を感じる。この地にやってきてこの施設を作った人物は、何かよからぬ事でも企んでいるのではないだろうかと思ってしまう。
(もっとここを調べるべきか、それともクラッシュ達に会ってこのことを伝えるべきか・・・)
「クランチ、無理はせぬ方が良い」
クランチの心を読みとったのか不意にアクアクがそんな事を言ってきた。確かにその通りかもしれない。少なからず爆発を受けた身体で単身で行動するのは危険だ。そんな状態で万が一にもここにいる人物と出くわしたら厄介なことになるだろう。
「そうだな・・・一旦外に出よう。あの天井から出られるかもしれねぇ」
そう言ってクランチは立ち上がる。

「ケホッ、ゴホッ・・・ふぅ、一時はどうなる事かと思ったぜ」
もうもうと辺りに広がっていた煙もようやくどこかへ四散していき、ナット達はゆっくりと起き上がった。すると、ナットの言葉に噛みつくようにシドが言った。
「っていうか、どんな物持って来たら爆発なんて起こんの・・・!?」
「うっさい。もとはと言えばお前の意味不明なドジが原因だろうが」
ナットはそう言いながら地面に落ちていた発明品を拾い上げた。あれだけの爆発でさすがに壊れてしまっているようだ。
「・・・こいつはまぁ発電機みたいなもんなんだ。外から受けたエネルギーを余すことなくこの球の中に蓄える・・・はずだったんだけどな」
実を言えば、先程の爆発はナットにとっても想定外の出来事だった。あれほど高い場所から地面にぶつかる衝撃は計算外だったため、その球の中にエネルギーを蓄えきれなくなり周囲に飛び散ってしまったというわけだ。
「ほぅ・・・それはなかなか面白そうな物だな」
「だろ?って、え・・・?」
後ろから聞こえてきた声は一瞬シドかと思ったが、明らかにそうではなく聞き慣れない声だった。ナットが後ろを振り向くと、そこには見た目30代後半くらいの男が立っていた。
シドも彼の声を聞くまでその存在に気付いていなかったらしくかなり驚いた表情をしている。
「・・・誰だよアンタ!いきなり話しかけてくるんじゃねぇよ、びっくりしたじゃねぇか!」
「悪かったな、俺はリドルだ。その服、ワルワルスクールの生徒だな?」
「!!?(こいつ、ワルワルスクールの事を知ってんのか?!)」
ワルワルスクールは本来、世間には知られてならない場所である。知られていたとしてもせいぜいその存在が噂として伝わる程度のはずだ。それをこの男はナット達の制服から彼らをワルワルスクールの生徒であると断定したのだ。
「アンタは・・・何者?」
シドが小さくそう言った。それを聞いたリドルは少し微笑んで答える。
「そうだな・・・お前達が納得する答えで言えば、俺はお前達の先輩だ」
「・・・え、ええええええ!!」

クランチは部屋の隅にあった道具を並べるための棚に手をかけた。そこから棚の上へあがれば、何とか天井の穴まで届くだろうとふんだからだ。そして2段目の棚に足を乗せて登ろうとしたその時、部屋の外からかすかに足音が聞こえてきた。
カツン、カツン、とその音は徐々に大きく響いてくる。間違いなく誰かがこちらに近づいてきている。
(チッ、急がねぇとな・・・)
クランチは素早く棚の上へと登っていったが、その頃にはクリムゾンが部屋の扉を開けていた。2人の視線はすぐにぶつかった。
「・・・フン、思った通り・・・と言ったところか」
クリムゾンはそう言うと静かに冷たく笑いだした。そしてクランチに近づいていく。
「・・・・・・大人しく殺されろ、害虫がッ!」
そう叫ぶと同時に一気に走りだし懐からレーザーソードの柄を取り出した。
「くっ・・・仕方ねぇ」
クランチが構えた直後、クリムゾンがレーザーの刀身を一気に出してクランチの立っている棚を斬り払った。
「おわっ・・・!」
足場が崩れクランチは一瞬体勢を崩すが、すぐに床に飛び下りてクリムゾンの方を向いた。しかし、その瞬間にはクリムゾンは既にレーザーソードを振りかざしていた。
「なっ・・・!(速いッ・・・!)」
クランチは右の鉄腕で何とかその刃を受け流すと、左腕ですぐに殴り飛ばした。クリムゾンは後ろへと吹き飛ばされたが、床にレーザーソードを突き刺し何とか踏みとどまった。
「クックック・・・お前も腕を改造しているのか、面白い!」
「・・・?どういう意味だ」
「意味など知らなくていい・・・お前はただ、死ねばいいのさ!」
クリムゾンはそう言ってレーザーソードを振るう。
(ったく・・・こいつはとんだキチガイ野郎だぜ・・・)
クランチは右腕で思いきりクリムゾンに殴りかかるが、クリムゾンはそれをひらりとかわす。そして彼は素早くレーザーソードで反撃に出るが、クランチも間一髪でこれを避けた。
すると、クランチは突如足払いを繰り出しクリムゾンを転ばせた。ココから教わった技だ。
「何ッ!?」
そして即座にクリムゾンの身体を掴み上げた。そのままクランチはクリムゾンを壁に押し付けながら話しかける。
「さぁて、お前に聞きたい事がある。ここは一体何のために作った?お前は何を企んでやがる?」
「フン、尋問タイムにゃまだ早すぎるな」
そう言ってクリムゾンは懐から爆薬を取り出して床に投げつけた。
「なッ!?」
そこから起こった爆風でクランチは吹き飛ばされてしまった。勿論、それを投げつけたクリムゾン自身も吹き飛んだわけだが、彼のダメージは少ないようだった。その証拠に彼は息つく間もなく即座にクランチに攻撃を仕掛けてきた。
クリムゾンはレーザーソードをクランチに振り下ろした。クランチは転がるようにして何とかそれを避けたが、クリムゾンの猛攻はなかなか止まらない。クランチはしばらく防戦一方を強いられることとなった。
「くっ・・・この野郎!」
クランチはレーザーソードを右腕で受ける。それと同時に左腕でクリムゾンに渾身のパンチを当てた。
「ごふっ・・・!(こいつ・・・俺の攻撃を敢えてかわさずに自分の攻撃を確実に当てに来たのか・・・!)」
そこから今度はクランチがたたみかけるように猛攻を仕掛ける。しかしクリムゾンは攻撃を受けながらもレーザーソードを振るってきた。クランチは即座に彼の手を壁に押し付けそれを防いだ。
「・・・これでどうだ?」
「チッ・・・甘いなァ!!」
クリムゾンはそう叫んで左手で懐からレーザーソードの柄を取り出した。
「何ッ、もう1本だと!?」
クリムゾンは彼の右腕を抑えていたクランチの腕に斬りかかる。クランチは素早く腕をひっこめてそれをかわすが、その直後右のレーザーソードがクランチを襲った。クランチは辛うじてそれを避けたが、再び防戦一方の展開になってしまった。
(どうなってやがる・・・?!あれだけ攻撃を受けて息切れ1つしてねぇだと・・・!?)
すると、クリムゾンが大ぶりの一撃を仕掛けてきたのでクランチはそれをかわして素早く反撃に出た。クリムゾンは大きく吹き飛ばされる。と、その拍子に彼の懐からある物が落ちてきた。
扇子だ。それもクランチやアクアクが見覚えのあるものだった。
「その扇子は・・・!?」

一方その頃、クラッシュ達は倒れた巨木に沿ってひたすら歩き続けていた。
「もうそろそろ根本の方ね」
ココがそう言った直後、クラッシュ達の目の前に広がる景色が一変した。クラッシュ達を取り囲んでいた鬱蒼と生い茂る木々がある地点からその巨木以外すっかりなくなっているのだ。
「うわぁ〜・・・すごい」
「一体ここで何があったの・・・」
アテナはそうつぶやくと、焼け野原となったその場所に何かを発見した。
「あ、あそこに人がいるみたいよ!」
「本当だわ。クランチ達じゃないみたいだけど・・・何か知ってるかもしれない。行ってみましょ」
ココはそう言ってその人影に向かって歩いていく。クラッシュ達もココに続いて歩いていると、その人影に近づくにつれてその人物の中に見覚えのある人がいることに気付いた。
「あ、あの人は!」
真っ先にクラッシュが声を上げた。
「お兄ちゃん、知ってる人いるの?」
「うん、あの人にココ達と黄金リンゴの場所を教えてもらったんだ。もう1回教えてもらおうっと!」
そう言ってクラッシュはその人物に向かって勢いよく走りだした。

次へ

戻る