パニックコメディ パニックラッシュ!


回転撃さん作

〜Ending〜



クラッシュは元気よくリドルに声をかけた。それなりに離れた距離からだったが、クラッシュの声はリドルのもとまでしっかりと届いた。彼の態度は相変わらず落ち着き払っている。
「・・・そろそろ来る頃かと思ってたぜ」
ココ達もクラッシュに追いつき、リドルに挨拶をした。成程、ココ達もどこかで見た事があるような気がしていたが、洞窟で熊に襲われた時に出会った男だ。
あの時は暗い場所でよく見えなかったが、前髪で目が隠れているのが印象的だったため近づいて見たらすぐに分かった。それで彼はクラッシュに自分たちの居場所を教える事が出来たのだろう。
そういえば、黄金リンゴについても何か知った風な発言をしていた。すると、リドルと共にいたナットが話に入ってきた。
「なんだ?知り合いなのか?」
「俺は大概の奴は知ってる」
このリドルの答えから察するに、彼はおそらく情報屋なのだろう。ワルワルスクール出身者にはそういう職業になる者も少なからずいる。
「ついでにお前の用も分かってるぞ。どうせ闘ってるうちにどの方向か分からなくなったとか、そんなところなんだろ?」
「うん、よく分かったね!」
「・・・何でそんなことまで分かったんですか?」
アテナが思い切ってそんな疑問をぶつけた。いくらなんでも知っている事が細かすぎる。まるでその時の現場を見ていたかのようだ。
「悪いな。その辺は企業秘密ってやつだ。詮索は控えてくれ」
「とにかく、黄金リンゴはどこなの?」
クラッシュが興奮気味にそう言ってきた。余程黄金リンゴを楽しみにしているらしい。
「それなら、ここから北・・・つまりこっちの方へ進んだところに崖がある。その崖を登れば黄金リンゴがあるはずだ」
そう言いながらリドルはその方向を向いてその先を見つめた。
「ま、気を付けて進む事だな」
「そっか。よ〜し、早速黄金リンゴを採りに行くぞ〜!」
そう言って意気揚々と歩きだすクラッシュをココが引き止める。
「待って!まだ聞きたい事があるわ」
「はぐれた仲間はどこにいるのか、だろ?」
またしてもその通りである。機先を制されたココは慌てて頷いた。
「心配しなくてもいずれ会えるさ。わざわざ探さなくてもな」
「・・・どういう意味?」
訝るココだったが、クラッシュはそれを聞いて安心したようでますます陽気になった。
「だってさ。それじゃ黄金リンゴを採りに行こうよ!」
成程、リドルの言葉は黄金リンゴを採りに行く途中で仲間たちと再会できるという意味なのかもしれない。そう考えたココはクラッシュの言葉に頷いた。
「・・・そうね」
こうしてクラッシュ達は黄金リンゴを目指して歩き出した。ただ、ココはまだリドルの予言じみた言葉が気になっていた。

リドルの言葉を気にしたのはココだけではなかった。クラッシュ達が去った後、ナットはリドルに訊いた。
「・・・なぁ、アンタは情報屋なのか?」
「まぁ、そういうことになるな。もっとも、俺自身を知ってる奴はそういないがな」
「へぇ、アンタのさっきの言葉は情報ってより予言っぽかったけどな。どっちかっていうと占い師みたいだ」
それを聞くとリドルは静かに笑いだした。
「成程な。確かにそういう意味じゃ、俺は占い師なのかもしれない」
「何だよそれ・・・」
すると、シドが突然思いついたように口を開いた。
「そうだ!それなら、僕達の探し物についても何か知ってるかもしれない」
これに対してリドルは2人にとって意外な事を言ってきた。
「あぁ、ニーナ・コルテックスの発明品の事か?あるぞ、この島に」
「え!?」
あまりにあっさりと答えられてしまい、2人は拍子抜けして一瞬その言葉を飲み込む事ができなかった。そんな2人の驚く表情を面白がっているのかリドルは微笑を浮かべている。
そして、ようやくその言葉の意味を理解すると、2人にはある疑問が浮かんだ。何故リドルはこちらが言ってもいないのにニーナの発明品を探している事を知っているのか。
「ちょっと待て・・・!何で俺らの探してる物まで知ってんだ?!」
「俺は情報屋だ。この世のありとあらゆる情報を持っている。相手が何を訊きたいかなんて事くらいは簡単に想像がつくのさ」
成程、それでこちらが訊く前に先だって答えを言えるわけだ。
「そうかよ・・・で、発明品はどこにあんだよ?」
「そうそう、さっきの奴らもそうだがこういうのは本来有料なんだからな。今回は特別だ」
「今更何を言ってんだよ。さっさと教えろ!」
「・・・お前ら、ここに来た時川でおぼれていた奴を助けただろ?その場所まで戻ってその川の上流を辿ればそいつがあるはずだ」
それを聞いて2人は思わず力が抜けてしまった。
「えぇ〜〜〜、何だよそれ!?ここまで来たのが無駄足じゃねぇか・・・」
「そんなことはない。俺に会わなきゃこんなことは分からなかったろ?」
「そりゃそうだけど・・・何この脱力感・・・」
シドはうなだれながらそう言ったが、目的地が分かった以上はそこにいくしかない。2人はすぐにそこへ向かおうと歩き出すと、リドルが不意に呼び止めてきた。
「そうだ。お前ら、学校に戻ったら友達にでもよろしく言っておいてくれ。いい情報がたくさんあるってな」
「宣伝ッ?!」
「見かけによらずちゃっかりしてんなぁ・・・」
2人はそう言うと、再び歩き出した。リドルはそんな2人の後ろ姿をしばらく見つめて不意につぶやいた。
「・・・・・・ここまで口を出してもまだ変わらないか・・・この未来は」

その頃、クランチはクリムゾンから思いもよらない物が出てきて驚きを隠せずにいた。アテナの持っていた扇子が彼の懐から落ちてきたのだ。
「おい、その扇子・・・なんでお前が持ってんだよ?!」
「知った事か!」
そう言ってクリムゾンは激しくレーザーソードを振るってくる。クランチはそれを避けながらも一つの不安が頭を駆け巡る。彼がアテナの扇子を持っているという事は、彼はアテナに会ったのだろうか。
もしそうだとしたら、アテナ達は今無事なのだろうか。そんな言葉が彼の頭の中で何度も繰り返された。クランチはクリムゾンの攻撃を避けながらさらに訊く。
「お前、一体どこでそれを手に入れやがった!?」
「そんなにそいつが気になるのか?・・・ハン、さてはそいつは仲間の物だな?」
「・・・こっちが訊いてるんだ。答えろ」
「フン、そんなもん聞いたところで何になる!」
クリムゾンの猛攻はまったく衰える気配がない。しかし、ここでクランチも負けじと思い切り鉄腕パンチを繰り出した。その右腕は見事にクリムゾンの腹を捉える。
「ぐふぉっ・・・!!(こいつ、思ったよりしぶといな・・・いつまでもモタモタしていられない)」
クリムゾンは何とか体勢を立て直すと、ふいに笑みをもらした。
(笑っているだと・・・!?)
クランチが不審に思う中、クリムゾンは不気味に緩めた口をさらに開いて言った。
「・・・フフ、なかなかやるな。予定変更だ」
「何・・・?」
すると、クリムゾンはやはり懐からレーザーソードの柄を取りだした。それも大量に、だ。クリムゾンはそれを一気にクランチに向かってばら撒くように投げつけた。
「・・・これは!!」
「ここでお別れだ・・・!」
クリムゾンがそう言った直後、空中にばら撒かれた大量の柄から一斉にレーザーが飛び出した。部屋の空間のほとんどが紅い光線に支配される。クリムゾンはその様子を眺めながら部屋を出ていった。
「今から計画を実行に移す」

一方、謎の爆発を起こした場所を目指すアーネスト達はかなりの距離を歩いていた。すると、疲労により足がもつれたのかぷうが突然転んでしまった。
「だぁっ・・・!?」
「大丈夫?・・・って、ああっ?!」
続けざまにアーネストも転んでしまう。足に何かが引っかかった感触がしたので足元を見てみるとツルのような植物が足に絡まっていた。
「アッハハ!2人ともひっかかった〜!」
犯人はアニーだった。長らく直線的に歩いていただけだったので退屈してしまい即席で罠を作ってしまったらしい。
「ちょっと・・・今はこんなことしてる場合じゃないでしょ」
「だって暇なんだもん」
すると、地面に伏していたぷうが何かに気がついたようで、突然声を上げた。
「あ、何か地面から聞こえてきませんか!?」
言われてアーネストとアニーも地面に耳をつけてみる。すると、下からかすかに何かが衝突したような衝撃音が聞こえてきた。
「本当だ。何だろこの音?」
「この先から聞こえてるみたいだわ。やっぱりあそこに何かがあるみたいね」
「よし、行ってみよう」
3人はその音が聞こえてきた方へ向かって走っていく。
「・・・あ!」
すると、その先の地面に大きな穴が見えてきた。恐らく3人が見た爆発によるものだろう。アニーがその穴の近くまで寄っていき中を覗いてみる。すると、アニーの表情が一変した。
「・・・何コレ!!?」
「どうしたの!?」
アニーの反応を見て、2人も慌てて穴を覗いてみる。すると、2人もアニーと同じく顔を真っ青にした。彼らが見た光景は、そこかしこに紅い光線が張り巡らされている部屋だったのだ。
「・・・あ!アレ!」
アニーが何かに気づいたらしく、大きな声を出してある方を指差した。その先には、多くの光線で若干見えづらいが確かに倒れているクランチが見えた。
「・・・クランチの旦那!」
ぷうは思わず身を乗りだしてそう叫んだ。すると、身を乗りだしすぎてバランスを崩してしまい、大量の光線が張り巡らされた部屋へ頭から落ちて行ってしまった。
「ぷうッ!」
「あああああああああ!!」
しかし、運よくぷうがぶつかったのは光線の方ではなく、それを出している柄の方だけだった。それによってそのレーザーソードを操作したことになったのか、ぷうがぶつけたレーザーソードの光線が1つ消えた。
「!光線が消えた!?・・・そうか!あの金属の部分にスイッチがあるのかもしれない。あれを押して光線を消していこう」
「分かったわ。そういうことなら・・・」
アニーはそう言うと見る見るうちにその姿を変えていった。どんどん小さくなっていき身体は黒ずんでくる。彼女が変身したのはやや大きめのツバメだった。
「これならあの光線の狭い隙間も通れそうだわ」
そう言ってアニーはぷうに続いて穴の中へ飛び込んだ。まずは近くにあった金属部分を目指していき、そこへとまるとスイッチらしきものを発見した。
「これかな・・・っと」
アニーはくちばしでそのスイッチを力強くつついてみた。すると、そこから出ていた光線が一瞬にして消えてしまった。
「やったわ!」
この調子でアニーは光線の隙間を縫ってどんどん紅い光線を消していった。これで部屋に落ちてしまったぷうもだいぶ動きやすくなってきた。
「よ〜し、僕も・・・」
ぷうは偶然近くにあった柄のスイッチを探しだし、それを押して光線を消した。1本1本消していくごとに新たな道が開けてより光線を消す事ができる。そんなパズルゲーム的な楽しさもあってか作業は順調に進んでいった。

一方その頃、クラッシュ達はいよいよリドルが言っていた崖の手前までたどり着いていた。3人はその崖を見上げてみる。かなりの高さだ。途中で崖から落ちたりしたらまず命はないだろう。すると、ココがクラッシュに聞いた。
「で、どうやって登るつもりなの?命綱とかもなしで」
「それを考えるのがココの役目じゃん」
「・・・もう、無責任にも程があるわよ」
早く何かを考えないとそのうちクラッシュが正攻法で崖を登って行ってしまいそうなので、ココは仕方なくこの崖を登る方法を考えた。と、思っている間にクラッシュは既に崖を登り始めていた。
「って、えーーーーーーッ!?ちょっとしびれきらすの早すぎない!?」
「だって時間がないんだろ?急がなきゃ」
ちなみに日本には急がば回れということわざがある。しかし、今となってはそんな言葉で諭してもクラッシュを引きとめられそうにない。正直に言ってココ達は先のクリムゾンとの闘いでかなり疲弊していた。
できればアテナにもこんな崖を登るなどという無理はさせたくない。かといってクラッシュを1人にしておけば何が起こるか分かったものではない。勿論アテナを置いていくのも心配だ。究極のジレンマである。
ココは今、まさに運命の決断を迫られていた。

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