パニックコメディ パニックラッシュ!


回転撃さん作

〜Ending〜



ココは迷っていた。クラッシュを追って崖を登るべきか、アテナとここに残ってクラッシュが黄金リンゴを取ってくるのを待つべきか、それともまた別の行動をとるべきか。
そんなココとは裏腹に、クラッシュは何の迷いも躊躇もなくどんどん崖を登っていく。そして、ついにココは口を開いた。
「アテナ、私達は別の道がないか探しましょ」
「分かったわ」
もしかしたら何か他にこの崖の上へ行ける方法が見つかるかもしれない。そんなことを期待して2人は、崖に沿って周りの様子を見て回ることにした。

「これで最後か・・・よっ、と」
ぷうが最後に残った1本の光線を消去する。その間にアーネスト達は、その場にいたアクアクと共に倒れていたクランチの様子を見ていた。すると、クランチはちょうど目を覚ました。
「クランチ、大丈夫?」
「・・・アーネストか?!」
「アーネスト達がワシらを取り囲んでいた光線を解除してくれたのじゃ」
「そうなのか・・・ありがとうな」
「困った時はお互い様だよ。それより、一体何があったんだい?」
アーネストが言うと、クランチは急に深刻な表情を見せて答えた。
「そうだ、この島に怪しい奴がいたんだ。さっきそいつに襲われた」
「何だって!?」
クランチは、アーネスト達にこれまでの経緯を説明した。それを聞く限り、やはりアーネスト達が見た爆発はクランチが起こしたものらしいが、何故爆発が起こったのかはクランチにもよく分からないらしい。
緑の怪しい液体が金属らしき物体に触れると、その金属が光を発して一気にはじけ飛ぶように爆発したということらしいのだが、一体どういう原理でそんな事が起こったのだろうか。
そしてクランチを襲った謎の科学者は、一体それをどう使って何をなさんとしているのか。今のところは考えても全く見当がつきそうにない。
「とにかく、一旦ここから出よう。こうなると早くクラッシュ達とも合流した方がよさそうだし」
アーネストの意見にクランチ達もうなずいた。
「ああ、そうだな」
クランチ達は周囲に散らばる瓦礫を積み重ねて、そこから何とか天井の穴まで上っていきクリムゾンの地下研究所を脱出した。
「さて、これからどうしましょうか・・・?」
ぷうが皆を見てそう言った。すると、アニーが不意に何かを思い出したような顔をして口を開いた。
「あ!そういえば、ここで起きた爆発の少し前にありえないほど大きな木が倒れたわよね?あそこでも何かが起こったんじゃないかしら?」
「そんなことがあったのか・・・俺達はずっと地下にいたからそんなこと全然気がつかなかったぜ」
「もしかしたら、あの時の激しい揺れはその木が地面に倒れた時の衝撃だったのかもしれんのぅ」
クランチに続けてアクアクがそう言うと、クランチもそれに納得した。
「成程、そういうことか・・・」
するとここで、アーネストがアニーの言葉に同意した。
「まぁ、確かにそれにも何かありそうだね。まずはその木の根本辺りに行ってみようか」
「ああ、そうするか」
こうしてクランチとの合流に成功したアーネスト達は、クラッシュ達を探すべく一斉に歩き出した。

その頃、クリムゾンは再び研究所に戻り、計画の実行の準備を始めていた。彼の計画とは、この島の火山を人工的に噴火させる実験の事である。この付近の採掘場から採掘した鉱石から特殊な金属を抽出し、それと著しい反応を示す液体を合わせることで爆発を起こす。
これを島中の地下で一斉に起こすことで、それよりはるか地下を流れるマグマを刺激して、自分の意志で大規模な火山噴火を起こそうというのがクリムゾンの計画なのである。
想定している規模では、この島全体を焼け野原にしてしまえるほどの噴火を起こせる予定だった。しかし、それゆえに彼はこの島から脱出した後で爆破の遠隔操作を行えるようにする必要があった。
そこへ、ココやアテナをはじめとするよそ者が図らずも介入してきたのである。もし、彼らが何かの手違いでその装置の一部を発動させてしまったら。それを考えると、彼はもはや噴火の程度を観察するなどと悠長な事を言っている場合ではなかった。
かといって、何年もの時間を費やしてきたこの計画を無駄にもしたくない。それならばいっそ、今から装置を万全の状態にしてしまうのがよいと判断したのだ。かなりの賭けにはなるが、彼はクランチを発見した時点で実はそのことを決心していた。
「必ずこの実験は成功させる!部外者もろともこの島を火だるまにしてやるよ・・・!!」
「ほぅ・・・なかなか面白い思考をしてるな」
突然の声にクリムゾンは思わず後ろを振り返った。そこにいたのはリドルだった。
「チッ、また侵入者か!」
「まぁそう身構えるな。俺はお前と話をしに来ただけだ」
リドルは狂科学者の前でも相変わらず落ち着き払った様子だ。
「お前のことなんか知ったことか。俺の邪魔をする奴は潰すだけだ」
「邪魔ねぇ・・・俺はむしろ助言をするつもりなんだが・・・」
「助言だと・・・?ふざけたことを・・・」
「お前、この実験の結果はどうなると思う?」
「!!」
さすがのクリムゾンも驚きを隠せない言葉だった。彼はこれまでこの島に1人で実験を進めてきたのだ。ましてこの計画を他人に明かした事など一度もない。にもかかわらず、この男は自分の計画を知った風な言い方だ。
いや、もしかしたらその言葉自体が自分に計画を吐かせるための揺さぶりなのかもしれない。しかし、リドルはさらに不可解な言葉を放ってきた。
「教えてやろうか?この実験がどうなるか」
「何だと・・・!?お前に何が分かるというんだ!?」
「基本何でもさ」
「そんなこと信じるバカがどこにいる!」
「そうだな・・・例えばお前の昨日の晩飯でも当てようか?昨日はパエリヤを食ったろ?それも結構凝って作ったみたいだな」
「フン、くだらん・・・」
そうは言っても、確かにリドルの言っている事は当たっている。リドルはさらに続けた。
「その前の晩飯は麻婆豆腐、そのまた前はビーフストロガノフか・・・お前やたらしっかりしたもの食ってるな」
「うるせぇ、悪いか!」
「そんで今日は気分を変えて和食とくるか、というか、あれは創作料理か?」
「!?」
ここでクリムゾンは表情を変えた。今はまだ昼の時間帯だ。それなのに、リドルはクリムゾンが密かに考えていた今日の予定まで言い当てたのだ。
「お前、何故そんなことを・・・」
「だから言ったろ。俺は基本何でも知っている。これから起こる事もだ」
リドルの言葉は決して比喩的なものではない。彼にはある程度先の未来が分かるのだ。彼の持てる莫大な量の情報が、多くの人々の行動選択を把握することになり、結果的にその人々が引き起こす出来事を前もって知る事が出来るのである。
「・・・フン、そんな能力が実際にあったとしてもお前の助言などいらないな。何年も前からこの計画を進めてきたんだ・・・それをどこの誰だか知らない男にあっさりと答えを出されて納得できるわけがねぇ」
「成程、そりゃもっともだな。だが、そういう気持ちは俺もよく分かってるつもりだ。いつもなら向こうから聞かれない限り口を出したりはしないさ」
「それ以上は言うんじゃねぇ!それでも俺は実験は止めない!」
クリムゾンの声が激しく研究所に響いた。さすがのリドルも1歩後ずさりをした。
「オイオイそんなに怒るな。分かったよ、そんだけ言うなら今回も見届けるだけにするさ。まぁ、気をつけろ、とだけは言っておくとしよう」
「フン、充分すぎる助言だぜ」
クリムゾンがそう言うと、リドルは何も言わずにどこへとなく去っていった。クリムゾンはすぐに振り返って再び計画の要である材料と向き合った。要するに、この計画にどこか欠陥がないか見直していけばいいのだ。
そこを直しつつ準備していけば、リドルが見た未来とは違う結果になるはずだ。こうしてクリムゾンは、これまで以上に神経を注いで計画の準備を再開した。

一方、崖の上へ登るための道を模索していたココ達は、一通り周辺を調べてみて気付いた事があった。
「この崖の地層・・・火山灰の地層じゃないかしら?」
ココがむき出しになっている地層の最下部を見ながら言った。確かに、それは間違いなく火山灰でできた地層だった。
「そうね。ということは、この辺りの山は火山だったのね」
アテナがそう言うと、ココがさらに口を開いた。
「ええ、それもどうやらこの崖がその火山だったみたいよ・・・」
そう言いながらある方向を指差すココ。アテナはその指先に従ってしっかりと延長線上を辿っていく。すると、その先には先程の崖よりもいくらか勾配が緩やかな崖があった。
「恐らくここはもとは山だったんだけど、何かで一度山肌が削れちゃったのかもね。ここからなら私達でも登っていけそうだわ」
「そうね。行きましょ」
こうして2人はクラッシュを追うためその崖を登っていくことにした。

時を同じくしてクラッシュは、未だひたすら崖を登っていた。ここから見る景色から察するに、今のところ4分の3程度の高さを登ってきただろう。さすがにそろそろクラッシュの心の中にも恐怖心が芽生え始めてきたが、それでも迷わず進んでいた。
すると、上の方に少しくぼんでほら穴のようになっている箇所があった。
(・・・よし、あそこで少し休んでいこう)
そう考えたクラッシュは、これまた迷わずにその小さなほら穴の中へ入った。すると、その中には木の枝が集められており、その上に幼いひな鳥が数匹座っていた。
「そうか、ここは鳥の巣だったのか。親はいないのかな〜?」
クラッシュがそう言った直後、背後から甲高い鳥の鳴き声がした。まさかと思いクラッシュはゆっくりと後ろを振り返る。案の定そこにはこちらへ向かって飛んでくる大きなワシがいた。
「・・・いた〜〜〜ッ!!」
当然ながらワシはクラッシュの事を我が子を食わんとする天敵とみなし、威嚇の鳴き声を上げながら襲いかかってきた。鋭いくちばしを素早く動かしクラッシュの体を何度もつつく。
「いたいっ・・・!!ちょっ、少し休みたいだけだってば〜!」
たまらずクラッシュはほら穴もといワシの巣から出た。こうしてクラッシュは崖登りの再開を余儀なくされた。しかし、巣から出ても依然としてワシはクラッシュを襲ってくる。
クラッシュは崖を登って行こうとするが、それをいいことにワシは容赦なくクラッシュの背中をこれでもかという程につついてくるのだ。
「ちょっ、いたいっ・・・やめてくれぇ〜〜〜!!」
それでもクラッシュはその痛みに何とか耐えつつ、ゆっくりと崖を登っていく。しかし、ここでワシは会心の一撃を繰り出す。ワシのくちばしはまっすぐにクラッシュの尻の部分にめり込むように直撃した。
「・・・ぬぎょ〜〜〜〜〜〜ッッ!!!」
さすがにこの一撃にはクラッシュも耐えられず、崖の凹凸から手を離してしまった。そのままクラッシュは一気に崖から落下した。しかし、ここで黄金リンゴへの執念がクラッシュを駆り立て、彼は瞬時に崖に手を伸ばした。
腕に激しい痛みが伝わってくるが、彼の執念はその痛みをもものともしないほど強いものだった。そうして少しずつ落下速度が下がっていき、やがてクラッシュは崖の表面の凹凸をしっかりと捉えて何とか踏みとどまった。
「・・・・・・ふぅ〜」
改めて下を見てみると、ここで止まれなかったらどうなっていたかを嫌応なしに想像させられて冷や汗が出た。ここからの景色を見回してみると、どうやらクラッシュは崖の半分程度の高さまで戻されてしまったらしい。
今度は上の方を見て、クラッシュは再びしっかりとした足取りで崖を登り始めた。
「・・・今度はあそこを通らないようにしよ」
そうして鳥を警戒しながら、クラッシュは20分程度崖を登り続けた。さすがにクラッシュにも疲労がたまり始め、息切れも激しくなってきた。しかし、ゴールはもうすぐそこまで来ているはずだ。
ようやく黄金リンゴのもとまで辿り着ける。そんな思いが唯一クラッシュを勇気づけてくれた。そして、いよいよクラッシュの目にも崖の終わりが見え始める。
「・・・やった・・・!」
久しく触れていなかった草の生えた温かみのある地面に、クラッシュは力強く右の手をかける。そこからは一気に身体を押し上げて崖の上に上がり込んだ。
「やった・・・!ついに、黄金リンゴが・・・!」

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