パニックコメディ パニックラッシュ!


回転撃さん作

〜Ending〜



所変わってナット達は、リドルに言われたとおり来た道を引き返し、ぷうを助けた川まで戻っていた。
「・・・よし、あの人の話だとこの川の上流を辿って行けばいいんだよね?」
「ああ、さっさと行くぞ」
そう言って2人は川の上流へ上っていくと、しばらくして滝のような水が落ちる音が聞こえてきた。更に先へ進むと、案の定そこには滝があった。すると、ナットがその滝の手前に何かを見つけた。
「・・・あ、アレ!」
ナットがそう言って水の中へ指を指して見せた。シドもそれを見て、水の中にあったその物体に気がついた。それは、まさしく自分達が探していたニーナの発明品だったのだ。
「あ、あった〜〜〜〜〜ッ!!」
2人は目的の物をようやく見つけた喜びで思わず叫んでしまった。ナットが川へ入り、ニーナの発明品を拾い上げる。改めて見てみると、確かにその特徴的な形には見覚えがあった。
「これで俺達の命は繋ぎとめられたな」
ナットは冗談半分にそう言ってみせた。シドも笑いながらそれにうなずく。
「ああ、そうだね。さ、もう戻ろうよ。急いで帰らないと」
「ああ」
2人はニーナの発明品を手にして最初に来た砂浜へ戻ることにした。

クラッシュが高い崖を登り切った調度その頃、クリムゾンは計画の最終調整を終わらせていた。材料もすべて所定の位置にセットされた事を目の前のスクリーンが示している。
「・・・よし、これなら完璧だ。あとは俺がここを脱出して装置を作動させるだけ・・・いよいよだな」
そうつぶやくとクリムゾンは振り返りながら歩き出し、研究所を後にした。脱出用の船は専用に設計しておいた通路の先に用意してある。そこで船に乗って、ある程度島から離れたところでスイッチを押せばいよいよ実験が実行される。
クリムゾンはその実験を開始するスイッチをポケットの中で握りしめながら脱出口へと続く通路に入っていった。
「見てろよ・・・必ず成功させてやる・・・!」
クリムゾンは真紅の瞳をより一層鋭くさせて彼の行く先を見据えながら早足で通路を渡っていった。

一方、クラッシュは過酷な崖登りを見事制覇し、ついに黄金リンゴの生えている場所まで辿り着いていた。そこでクラッシュが見た光景は、まさに彼が待ち望んでいたものだった。
「こ・・・これが、黄金リンゴ!!」
目に前にそびえ立っている非常に大きな木が、その黄金リンゴの木だった。何百年もの間ずっと成長し続けてきたその木は、もはやリンゴの木だとは信じられないほどに大きくなっていた。
さらにクラッシュはその木の上層部を見上げてみる。枝先のところどころからきらびやかな雰囲気漂う光がクラッシュを照らしている。陽の光に照らされて、枝先に実っているリンゴがその光を反射して輝いているのだ。
これが黄金リンゴと呼ばれる所以の一つである。これを見たクラッシュは、リンゴの放つ光に負けないくらいに目を輝かせた。
「ついに・・・ついに見つけたぞ黄金リンゴ〜〜〜ッ!!」
歓喜の声を上げたクラッシュは、先程の疲労感はどこへやら、よだれをたらしながら勢いよく黄金リンゴの木に跳びついて木を登り始めた。

砂浜を目指して歩くナット達は、もうすっかり緊張感が解けていて、雑談をしながら森の中を歩いていた。その表情にもようやく余裕が現れ、2人は完全に事態を収束させた気でいた。
すると、シドが突然勢いよく前のめりに倒れ込んでしまった。ナットにとってそれはいつものことであるから笑い飛ばしたが、その後すぐにナットも勢いよく転倒してしまった。
「なっ!?(いや、これは・・・!)」
直後にナットはシドが持ち前のドジによって転倒したのではない事に気がついた。足元にツルの植物で作られた輪っか状の罠がいくつか仕掛けられていたのだ。転倒した勢いでナットはニーナの発明品を手放してしまった。
「あっ・・・!」
さらに運が悪い事に、その発明品は急な坂道の方へ転がっていってしまった。
「ああっ、発明品が!!」
それを見たシドはかなり焦りだしたが、当のナットは落ち着いた様子だった。
「いや、落ちつけ。転がってっただけならさっきの状況よりマシだ・・・にしても何でこんなとこに罠なんかがはってあるんだよ、チクショー」
立ち上がった2人は発明品を追って道ともいえない急な坂を下っていった。

その頃クランチ達は、大木が突如倒れた原因を調べるため、その根元を目指して歩いていた。歩き始めてから10分程度でその巨大な木の幹を発見したが、改めて間近で見ると思わず声を上げてしまう程の大きさだった。
そして現在、その木の幹を根本側の方へ辿っている所なのだが、なかなか根元付近までたどり着けない。思っているよりも相当大きな木だったらしい。すると、ぷうが目の前の草原の中に何かを見つけたようだった。
「ん、何だろうアレ?」
「どうしたぷう?」
クランチの言葉をよそにぷうは見つけた何かに駆け寄った。それを手にとって見てみるが、そうしてみてもそれが何なのかは全く分からなかった。クランチも上からそれを見てみるが、同じく見当がつかないらしい。
「何だそりゃ?何かの機械だってのは分かるが・・・」
すると、遠目で見ていたアーネストが近づいてきて何かに気がついたような表情を見せた。
「待って、それ、どこかで見た事あるような・・・そうだ!これ川辺で水を飲んでた時に落ちてきた物とそっくりだ」
「あ、本当だ!」
「・・・どういう事だ?アーネストにアニーまで」
2人は現場にいなかったクランチやアクアクに当時の状況を説明した。その間、ぷうにもある記憶が映像として浮かんできていた。ナットとシドの2人だ。
[あぁ、まぁ俺達も探し物だ。リンゴではないけどな]
[そうだ。君はこの辺で何か機械っぽい物見なかった?]
今、その機械らしきものは自分の手の中にあった。もしかしたらこれが彼らが探していた物なのかもしれない。だとしたら、自分はこれをどうすればよいのだろう。しばらく考えた後、彼はやはり自分が持っていた方がいいだろうという結論に落ち着いた。
(どこかで2人に会ったら、これを渡してあげよう・・・)
そう決意した直後、ぷうが少し強めにその機械を握りしめたせいか、そこからブザー音のような音が鳴り響いた。
「うわっ、何だ!?」
皆が警戒する中ブザー音の鳴る間隔がどんどん短くなっていく。
「・・・ぷう、そいつを離せ!」
「え、でも・・・」
しかし、時すでに遅し。一際大きなブザー音を最後に機械のところどころから穴が現れ、そこから身を裂くような勢いのエネルギー波が飛び出てきた。
「うわああああああああああ!!」
この衝撃によって、その場にいた全員が空高く吹き飛ばされてしまった。ただ1つ、その謎の機械だけをその場に残して。

黄金リンゴを取ろうと木登りをしていたクラッシュは、あと一息で黄金リンゴの実に手が届くかというところだった。いよいよクラッシュがその実へ手を伸ばす。するとその瞬間、さらに上の方から何かの音が聞こえてきた。
「ぁぁぁぁぁ・・・」
「・・・?」
その音は徐々に大きくなってくる。
「ぁぁぁああああああ〜〜〜!!!」
その時、クラッシュの頭上を包む黄金リンゴの木の葉の天井からクランチ達が落ちてくる姿がようやく見えた。
「・・・え〜〜〜〜〜!?」
クランチ達はクラッシュも巻き込んで豪快に地面へと叩きつけられた。幸いアクアクの力や黄金リンゴの木の葉がクッションの役割を果たし、5人は軽症で済んだ。
「いてててて・・・オイ、みんな無事か?」
「うん、僕は平気だよ」
「もぉ〜・・・こんな会い方なんて聞いてないよ〜」
そんな声が聞こえてきて、クランチ達はハッとした。地面を見てみると、そこにはクランチ達の下敷きになったクラッシュがいた。
「クラッシュ!!」

坂を下りて行く途中でナット達は、遠くから大きな音とかすかな風圧を感じ取った。
「オイ、これ・・・」
「もしかして・・・ニーナの発明品?」
ニーナの発明品がどんなものであるかはナット達も分かっていない。だが、あの大音量を聞くとどうしてもそんな気がしてならない。ナット達は急いで坂を下りた。すると、その先の草原にその発明品が転がっているのが見えた。
「あ、あったよナット!」
「ふぅ、とりあえず何事もなくてよかったぜ」
そう言ってナットはニーナの発明品を拾い上げる。崖に近い坂を下りてきてしまったせいで、再びそこを上がっていくのは難しそうだ。
「あ〜あ、少し遠回りになっちまったな」
「次は慎重にいかないとね」
「お前がそれを言うか」
2人は気を取り直して再び砂浜を目指し歩き出した。しばらく進むこと数分後、ナットが持っていたニーナの発明品が突如ブザー音を鳴らし始めた。
「何だッ!?」
「ナット何かした?!」
「いやどこも押した覚えはねぇぞ!?」
実は、数分前にぷうが押した部分は2つあった。1つはその場でエネルギー波が放出される通常発動ボタン。もう1つはタイマー発動ボタンだった。つまり、ぷうは知らぬ間に数分後にも機械からエネルギー波が放出されるように設定してしまっていたのだ。
混乱する2人をよそにブザー音の間隔はどんどん短くなっていく。
「くそ、どうすりゃいいんだ!?」
ナットは苦し紛れに機械の一部を動かしてみる。すると、ナットに向かって大きな穴がその機械に現れた。
「なっ!?」
ナットはとっさにその穴を他の場所に向けた。そして、その穴からは勢いよくエネルギーの波動が放たれる。
「!!?」
「・・・マジかよ?;」
もしナットが機転を利かせて発明品を動かさなかったら、ナット達はただでは済まなかっただろう。しかし、ナットが機械の穴を向けた方向には問題があった。その先には、ニーナの発明品と同様に落ちていったディンゴの火炎放射器が落ちていたのだ。
間もなく、その爆発音はナット達にも轟いてきた。
「え、ええええええええええ!!?」

火炎放射器の爆発は、瞬く間に周囲の木々を焼き飛ばす程の猛威をふるった。同時に、その地下へも衝撃を与えることになった。そして、何の偶然かその下には調度クリムゾンが仕掛けた爆破装置が設置されていた。
クリムゾンがスイッチを押せば、地中に設置しておいた液体タンクの中に金属が投下されるシステムだったのだが、火炎放射器の爆発によって液体と金属を隔てていた栓が吹き飛ばされてしまった。
こうして、火炎放射器の爆発がクリムゾンの火山噴火計画を強制始動させることとなった。爆破装置の決壊によってその付近に設置されていた金属がさらに爆発を起こす。爆発がさらなる爆発を呼び、ドミノ倒しのように島全体へ広がっていく。
クリムゾンは脱出用の船がある洞窟に辿り着く寸前のところで、その始まりの音と衝撃を感じ取っていた。
「この音・・・馬鹿な!まだスイッチは押していないぞ!?何故爆破が始まった・・・!!?」
しかし、クリムゾンはその混乱をすぐに頭の隅に追いやった。始まってしまったものはもうどうしようもない。脱出船まではもうすぐなのだ。今は脱出することを考えるべきだ。そう思ったクリムゾンは目の前の扉を開いて海へとつながる洞窟に出る。
「・・・これは!」
見ると、海水のところどころから気泡が浮き上がってきていた。マグマの動きが活発化されて、地下水が気化し始めているのだ。思っていたよりも早く活動が促進されているようだ。
「急がなければな・・・」
クリムゾンは素早く脱出船に乗り込み、船のエンジンをかけた。

「・・・今の音は・・・?」
クラッシュを追って別ルートから崖を登っていたココとアテナは、あと一息で崖を登り終えようというところで凄まじい爆音を聞きとった。それも連続的に何回も爆発音が聞こえてくる。
ただならぬ不安を感じたココは一気に崖を登り切ると、その先に唖然とした表情で崖を見下ろすクラッシュ達がいた。
「お兄ちゃん!それにクランチ達も・・・!」
「・・・ココ、アテナ!」
「そうだ、アテナ」
ふいにクランチがアテナに近づきポケットから扇子を取り出した。
「これ、お前のだろ?」
「それは・・・!どうしてクランチが?」
「まぁ、色々あってな・・・拾ったんだ」
そう言ってアテナに彼女の扇子を渡すと、彼女はお礼の言葉を言った。
「ありがとう、クランチ」
「それで、皆一体どうしたの?」
ココがそう訊くと、アクアクがそれに答えた。
「今、島中で爆発が起こってるのじゃ!」
そう言った直後にも、また新たな爆発が次々と起こっている。その様子を見たココ達は驚くばかりである。アクアクはさらに言葉を続ける。
「このままではここも危ない。急いでここを脱出するぞい!」
「ええ」
「ちょっと待った!まだもうちょっと入れたい!」
見ると、クラッシュは持ってきた袋に黄金リンゴの実を懸命に詰め込んでいた。即座に全員が声を上げる。
「そんな事やってる場合かッ!!」
その時、今度はクラッシュ達が経っている地面が大きく振動し始めた。
「これは・・・・・・;」

マグマによって気化した水蒸気が、先陣を切って火口の栓の役割を果たしていた黄金リンゴの木を吹き飛ばし、ついにこの島の火山は轟音と共に火を噴いた。

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