クラッシュ・ウェスタン2 〜Leute beim Edelstein〜


リボルバーさん作

OPENING

正午過ぎのアップルタウン。
「忙しすぎだよ〜!」
この街の保安官、クラッシュバンディクーは街に一つしかない保安官事務所で大量の取調べを行っていた。
「半日で暴行が30件、強盗20件、ほかにもいろいろ・・・どうなってるんだよ!」
クラッシュは最近の犯罪の発生率に若干イライラしていた。
此処最近、この街に外部からの人達がどんどんと集まっているのだ。
「あーあ、これもおいらがあれを見つけたせいなのかな・・・」

この物語が始まる一ヶ月前、街は驚くほど静かだった。
外部から人が来る気配もなし。街では皆がのんびりと仕事をしていた。
そんな街では犯罪など起こるわけもなく、クラッシュも暇に暇を持て余していた。
そんな時彼が大抵立ち寄るのがバー・クランチ。真昼間から酒を飲む人などいなく、酒場の中はクランチとクラッシュの二人きりの場合が多い。
「いらっしゃい・・・やっぱりな」
酒場のドアを開けて入ってきたクラッシュを見てクランチは呟いた。
「いつもの頼むよ」
クラッシュはさっさとカウンター席に座り注文を頼んだ。
「はいはい、アップルシェリフさんよ、りんごジュース一杯」
クランチは既に作っておいたりんごジュースをグラスに注ぎ、カウンターに置いた。
「アップルシェリフって言うな〜!」
「うるせぇ。とりあえず暇な日常に乾杯だ」
クラッシュの言葉をよそにクランチもグラスにウィスキーを注ぎ、りんごジュースの入ったグラスに当てた。
そしてクラッシュとクランチはグラスの中の飲み物を一気に飲み干した。
「・・・マスター、暇で暇で仕方が無いんだよ」
クラッシュが呟いた。
「暇なことほどいいことは無い。お前が暇じゃない時なんてろくでもねぇことがおきてる時位だろ」
「でもさ、イベントってほしいよね。例えばいきなり地下から石油が湧き出てきたり!」
「ないな」
「近くの崖から金銀財宝がざっくざく!」
「ない・・・とは言い切れないぞ」
クランチの口から出たのは予想だにしない答えだった。
「え?」
「昔の話だけど、近くの崖で七色に輝く宝石が見つかったことがあるらしいんだ。恐らくオパールか何かだろうけど、もしかしたら今でも見つけれるかもな」
「オパール・・・?それってりんご何個分?」
クラッシュがあまりに馬鹿馬鹿しい質問をしたためクランチは呆れかえった。
「・・・一億個はくだらないかもな」
クランチは適当に返した。実際オパールがこの付近で見つかったことはないし、見つかったとしてもせいぜい小粒で数千ドルくらいだろう。
そう、クランチはただ単にクラッシュと会話をするのが面倒くさいだけだった。適当なことを言ってクラッシュを酒場から追い出そうと言う作戦だった。
「一億!?おいら、今から探してくるよ!」
当然クランチの嘘を見抜けるわけも無くクラッシュは飛び上がって酒場から出ようとした。
「追い待て!金払え!」
クランチは怒鳴った。まだクラッシュから金を預かっていない。
「宝石が見つかったらそれを売った金で払うから〜!」
クラッシュは叫びながら酒場を急いで後にした。
「・・・どこまで単純なんだ」
クランチは呟きながら空になったグラスを洗い始めた。

街を飛び出したクラッシュは、今、荒野に突っ立っていた。
「宝石どこだ〜?」
クラッシュはとりあえず辺りを見回した。
しかし周りには何も無い。ひたすら荒野が続くのみ。
ここでクラッシュは気がついた。崖が無いではないかと。
「崖が無いってことは、宝石も発掘できない・・・つまり、おいらは・・・」
クラッシュはクランチに騙されたことにがっくりし、その場に仰向けに倒れこんだ。
「はぁ、そんなおいしい話なんか無いよね・・・」
クラッシュは呟いてふと顔を右に向けた。
クラッシュの目に眩しい光が差し込んだ。
「眩し!」
クラッシュは一瞬目を閉じ、再び明けた。クラッシュの視線の先に何か光り輝いたものが見えるのだ。
「何・・・?」
クラッシュは起き上がり、光のする物体に近づいた。
その物体は太陽の光を反射し、眩い光を放っていたのだ。
クラッシュはその物体を手に取った。
その物体は七色に輝く非常に綺麗な石だった。
「七色の石・・・もしかしてこれって・・・」
クラッシュは確信した。
「オ、オパールだー!!!!!!」
そう、その石は紛れも無くオパールだった。クラッシュ自身に宝石の知識は皆無だが、クラッシュは直感でそれが宝石だと感じたのだ。
「見つかった!見つかったよ〜!!!!」
クラッシュは大騒ぎしながら街へと帰った。
「宝石が見つかった〜!!!!」
クラッシュは街の中でも叫び続けた。その声を聞いてぞろぞろと住民たちが集まってきた。
「保安官、うるせぇぞ。俺っちは今精密作業をしてるんだよ」
ディンゴダイルがいらいらしながら店から出てきた。
「ディンゴ!これ見て!宝石だよ!ホ・ウ・セ・キ!」
クラッシュは興奮しながらディンゴにオパールを見せた。
ディンゴはオパールをじろじろと見つめた。
「・・・こりゃすげぇ。保安官、すげぇじゃねぇかー!!!」
ディンゴもこれが本物だと確信し、大騒ぎをしだした。
「なんやねんうるさいなぁ・・・」
「保安官たち、うるさい!」
「何だよ何だよ。せっかく今日の飯の仕込をしてたってのに」
今度はリラ・ルーとタイニー、そしてウォーラスが店から出てきた。
その三人にクラッシュはオパールを見せ付けた。その瞬間三人は大騒ぎをした。
「ほ、本物やんかそれ!ナンボ位の価値になるんや!?」
「タイニー、キラキラしたもの、好き!」
「すげぇなこりゃ。これで高級食材どれだけ買えるんだ・・・」
大の大人たちが大騒ぎをしたため、街中の住民がクラッシュの下に集まった。
「おいクラッシュ、宝石が見つかったって本当か?」
「お兄ちゃん、あまり騒がないで。ネット環境が不安定になっちゃうから」
クラッシュの家族であるクロックとココがクラッシュに近づいた。
「そうなんだよ兄ちゃん!これ、オパールって言うんだろ!?あとココ、最近家に閉じこもりすぎだよ」
クラッシュはそう言って二人にオパールを見せた。
「ほう、こいつはすげぇ・・・相当純度の高いオパールだなぁ・・・」
クロックはオパールを見てただただ感心するだけだった。
「お兄ちゃん、すごい・・・」
ココもオパールの美しさに唖然とした。
「おい保安官、俺様にもオパールとやらを見せてくれよ」
今度はポトリゲスがクラッシュに近づいた。
「これだよポトリゲス!きれいだぉ!?」
クラッシュはオパールを光にかざした。
「この付近でも見つかるもんなんだな・・・ま、興味は無いけどな」
ポトリゲスが呟いた。
「お、おいアップルシェリフ!お前本当に・・・」
クランチが急いでクラッシュの元に近づいた。
「ああマスター!これでおいら大林檎持ちだ!」
クラッシュは両手を挙げ、思いっきり叫んだ。
「まさかマジで見つけてくるとはな・・・」
嘘で言ったつもりだったクランチは、まさかクラッシュが本当に宝石を見つけるなんて思ってもいなかった。
町の住民皆で大騒ぎしているところに、村長であるアーネストもやってきた。
「保安官さん、宝石が見つかったって本当ですか?」
アーネストは落ち着いた表情で喋った。
「そうなんですよ村長さん!」
クラッシュはそう言うとアーネストにオパールを見せた。
「確かにこれは本物ですね・・・」
アーネストはそう言うと腕組みをし、何かを考え出した。
「村長さん、どうかしたんですか?」
クラッシュがアーネストに尋ねた。
「いや、もしかしたら更に発掘すればオパールが見つかるかもしれないと思いましてね。これを使えばいい商売になりそうだと・・・」
アーネストはある商売を思いついたのだ。
「普通、宝石っていうのはある一定の区域に何個か存在するはずなんですよ。確かに、保安官さんが手に入れた純度の高いものは見つからなくても、ある程度の品質のものは保証できます。この街で宝石が見つかったことを大々的に宣伝し、外部から人を呼び集めるのです。そうすると必然的にこの街で数日間暮らす人達が出てくる。その方々は宿に泊まったり、生活用品などを買うためにお金を使う。そうすると店は黒字になる。中にはこの街にずっと住む人が出てくる。すると・・・」
長ったらしいアーネストの話をクラッシュが理解できるわけが無かった。
「ど、どういうこと・・・?」
そんなクラッシュを見て呆れたココは、代わりにアーネストと会話をした。
「町興しということですね」
「そうですココさん!ただ問題は、どうやって宣伝するか・・・」
「そこはあたしにまかせてください!インターネットを使えば宣伝なんて簡単ですから!」
ココはそう言うと早速ノートパソコンを開き、カタカタとキーボードを打ち始めた。
「なんだかでっかい話になってきたな、クラッシュ」
クロックがクラッシュの肩をたたいた。
「そ、そうだね兄ちゃん・・・」
クラッシュはいまいち何が起こったのか理解できてなかった。とりあえず金儲けの話ということは理解していた。
「ちっ、くだらねぇことしやがる・・・そんなことしてろくなことが起きるわけねぇだろ・・・」
クラッシュから少し離れた所から話を聞いていた南は静かに呟いた。
「南さんよぉ、俺様は別に悪くない案だと思うぜ」
ポトリゲスがそう言いながら南に近づいた。
「あの宝石は駄目だ。持っていてろくな事がおこらねぇ」
南がそう言いながらクラッシュの手にあるオパールを指差した。
「まぁな・・・俺様も昔はあんな石ころ一つで何人もの仲間を失った抗争を経験したからな・・・金は何もかもを狂わせちまう」
ポトリゲスはそういいながらポトルーズ時代のことを思い出していた。
何億ドルもするダイヤを敵対するギャングから奪うと言った仕事をしたこともある彼にとって、金の恐ろしさは誰よりも分かっているのだろう。
「確かに金の問題もある。だが、あの宝石にはまだ秘密がある・・・」
南が小さな声で呟いた。
「秘密?」
ポトリゲスが聞き返した。
「おっと、これ以上は言えないね」
南はそう言うとその場を後にした。

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