クラッシュ・ウェスタン2 〜Leute beim Edelstein〜


リボルバーさん作

第一章

「・・・それからまさかこんなに人が来るとはね・・・」
クラッシュは一ヶ月前の出来事を思い出した後、大きくため息をついた。
まだオパールは売ってなく、今もクラッシュの家に保管されてある。
「これだけ働いたの初めてだよ・・・」
クラッシュが呟いたその時、保安官事務所の扉が開いた。
「保安官、また取り調べ頼むよ」
そう言って入ってきたのはポトリゲスだった。そして、彼の後ろには鼬の男性が立っていた。足元がふらついており、酒に酔っていることが分かった。
「うん、じゃ、ここに座らせて」
クラッシュはそう言うと自分の目の前の椅子を指差した。
ポトリゲスは男を無理やり引っ張り、椅子に座らせた。
「ポトリゲス、こいつは何をしたんだい?」
クラッシュはポトリゲスに尋ねた。
「僕は何もしてない!酒を飲んでたらこの鼬野郎が近づいてきて、無理やりここに連れて来やがったんだ!」
その男はそう言うとポトリゲスを睨みつけた。
「あんたには聞いてない!で、ポトリゲス、質問に答えて」
「こいつが俺様に罵倒してきたからイラついて連行してきた。それだけだ」
ポトリゲスはそう言うと男を思いっきり睨みつけた。
「鼬野郎、保安官気取りしやがって見ていて腹が立つんだよ!たかが鼬の癖によ!」
男がいきなりポトリゲスに暴言を吐いた。
「お前も鼬じゃねーか!大体真昼間から酒ばっか飲みやがって!あんまり俺様をなめるなよ!」
ポトリゲスも男に対して怒鳴り散らかした。
二人の暴言の言い争いを、クラッシュは呆れながら見ていた。
しかし、あまりにひどい言い争いに耐え切れず、クラッシュはとうとう切れてしまった。
「二人ともただの鼬野郎だ!ポトリゲス、そのくらいで連行なんかするな!そしてもう一人、暴言を吐くのをやめろ!」
いきなりクラッシュが叫んだので、二人は驚いて言い争いをやめた。
「・・・やっとやめたよ。そうだ、そっちの人、名前は?」
クラッシュは男に名前を聞いた。
「・・・リタイラル・ランジスタだ。ちぇ、酔いもさめちまったよ」
クラッシュはリタイラル・ランジスタという名前を机に置いてあった紙に書き留めた。
「リタイラル・ランジスタっと。リタイラルさん、ポトリゲスが迷惑掛けて悪かったね。もう帰っていいよ」
クラッシュはそう言ってポトリゲスに頭を下げるよう命じた。
「ふん、俺様の銃が火を噴かなかっただけマシだと思え」
ポトリゲスはそう言うとしぶしぶ頭を下げた。
「ふぅ、これでまた酒が飲めるぞ〜!バー・クランチで飲みなおしだ!」
リタイラルはそう言いながら軽快なステップで保安官事務所を出て行った。
「・・・気に食わなねぇ野郎だ」
ポトリゲスが呟いた。
「ポトリゲスさー、いいかげん小さいことで連行するのやめてよ。暴言吐かれた位で連行してたらきり無いじゃん」
「話変わるけど、あいつクランチの店のシクラメンって女にも何か言ってたぜ。酒の勢いかは知らねーけど、注文した品出すのが遅いとか言って」
「な、何だって!?シクラメンちゃんに暴言だと!?」
「・・・暴言って言うかクレームだな」

「いらっしゃいませー・・・あ」
バー・クランチでは真昼間にもかかわらず大量の客が溢れていた。
外部から来た人達にとって、此処は他者との交流の場としてうってつけだった。
クランチは、一人ではとても商売が出来ないと考え、急遽店員を募集、それをいち早く聞きつけ、店員となった女性がいた。
「さっきは申し訳ございませんでした。これからはもっと早く注文品を出すように致しますので」
「僕も言い過ぎたね。ごめんよ、気にしないでね」
リタイラルはシクラメンに適当に言葉を返すと、カウンター席に座った。
「おーい、シクラメン!カクテルが出来たから持って行ってくれ!」
クランチがシクラメンを呼んだ。
「はい、今すぐ行きまーす」
シクラメンは早足でクランチのところに行き、お盆にカクテルを乗せた。
「シクラメンちゃん、忙しいと思うけど頑張ってくれよ」
「はい、クランチさん」
シクラメンはそう言ってテーブル席の客の所にカクテルを持っていった。
「お待たせしました〜。マスター特製カクテルです」
シクラメンはそう言うと、テーブルの上にカクテルを置いた。
「お、サンキュー」
テーブル席に座っていた男は、カクテルを手に持つとゆっくりと飲み始めた。
その男は肩にワニを乗せていたため、客が多い中でもシクラメンは簡単に注文品を届けることが出来た。
「可愛らしいワニですね」
「だろ?おい、フェアー、べっぴんさんが褒めてくれたぞ」
その男はそう言うとフェアーと呼ばれたワニの頭をなでた。フェアーは気持ちよさそうに目を閉じた。
「あ、そうだ。店員さん、名前は?」
「は、はい、私はシクラメンという者です」
「シクラメンちゃんか・・・俺はロック・ヒューチャー、よろしく!」
ロックはそう言ってシクラメンに握手を求めた。
「え、あ、よろしくおねがいします・・・」
シクラメンは意味が分からないままとりあえず握手をした。
「それでさ、シクラメンちゃん。仕事終わったら二人でそこら辺散歩しない?俺、この街のことまだよく知らないから案内してほしいんだけどな・・・」
シクラメンはこの時点で彼が何をしようとしているか分かった。ナンパだ。
仕事が忙しいのですぐにでも此処を離れたかったが、とりあえず丁寧に断ろうとした。彼女も此処に来て間もないのだ。
「すみません、私もあまり此処の事はよく知らなくて・・・他の方に案内してもらってはいかがでしょうか?」
「え、そんなこと言わないでさ・・・」
ロックが言葉を続けようとしたその時、フェアーが肩からさっと降りた。
フェアーはそのまま酒場の入り口まで走っていってしまった。
「あ、フェアー!待て!ごめん、シクラメンちゃん!勘定頼む!」
ロックは焦りながら財布を取り出した。
「い、いえ、早くフェアーちゃんを追いかけないと!お金のほうはその後で・・・」
「悪い!絶対後で来るから!」
ロックはそう言うとフェアーを追いかけ、急いで酒場を出て行った。

「ここがアップルタウンか・・・」
竜の姿をした男がアップルタウンの大通りを歩いていた。
この大通りはディンゴやリラ・ルーなどが店を開いている場所であり、街の中でも酒場に次ぐ活気溢れる場所だ。
男は人の多さに驚きながら、大通りをゆっくりと進んでいた。
「今最も活気のある、宝石の街。是非勉強のためにも純度の高いオパールを見せてもらいたいものだ・・・」
彼の名はヘルゼル。
ヘルゼルの目的はオパールを見ることだった。
一度でいいから美しい宝石を見てみたい。それが彼の望みであった。
「ま、待て!フェアー!!」
前から別の男の声が聞こえた。
ヘルゼルは男の方を見た。
「おい、そこのトカゲさんよ!フェアーを捕まえてくれ!」
ヘルゼルは自分が呼ばれていることが分かった。彼はその見た目からよくトカゲとよばれている。別に気にしてもいないし、むしろ自分の正体が分かるものの方が少ないだろうと考えていた。
「フェアー・・・?何者だ?」
ヘルゼルはふと下を見た。ヘルゼルの足元には一匹のワニがいた。
「そいつだよ!捕まえてくれ!」
男が叫んだ。
ヘルゼルはフェアーを捕まえた。幸いにもおとなしかったため、噛み付かれたりはしなかった。
そして、男が息を切らせながらヘルゼルに近づいた。
「いやー、悪い悪い!たんまにどっか行っちまうんだよこいつ」
男はそう言うと、ヘルゼルが抱いていたフェアーを受け取った。
「あなたのペット・・・ですか」
「うーん、ペットと言うか相棒ってところだな。俺の名前はロック!あんたは?」
「私の名はヘルゼルだ」
「ヘルゼルか・・・あんた、この街に住んでるの?」
「いや、外部の人間だ」
「そうか・・・街案内をしてもらいたかったんだけど・・・とにかくありがとう!そうだ、何か礼させてくれよ!」
「礼など結構だ。私は何もしてないではないか」
「いいからいいから!俺と酒でも飲まない?」
「悪い、私は未成年だ」
そう、ヘルゼルは未成年なのだ。彼は来年二十歳を迎える。見た目で年齢が分かりにくいためか、過去にも酒の誘いを受けたことはあった。
「マジか!?でも俺の知ってるバー・クランチって店はジュースも絶品なんだってよ!ジュースなら飲めるだろ?」
「まぁ、飲めないことは無いが・・・いいのか?」
「もちろん!さ、さっさと行こうぜ!」
ロックはそう言うとバー・クランチに向って歩き出した。ヘルゼルも彼の後を着いていった。
「ロックさん、あなたは何故この街に?」
「俺?もちろん一攫千金を狙うためだ!あんたもその口だろ?だったら明日、俺と一緒に採掘場に行かないか?人手が多けりゃその分宝石も早く見つかるってことさ!」
「私はただ宝石を見たいだけだが・・・」
「他人の宝石見るくらいなら自分で探した方がいいじゃねえか!な、行こうぜ?」
「あ、ああ・・・」
ヘルゼルは終始ロックの勢いに押されっぱなしだった。
二人はその後も会話をしながらバー・クランチへと向っていった。

「あーあ、今日もダメだった・・・一体何がだめなんだ・・・」
クロックが肩を落としながら家へと向っていた。
クラッシュがオパールを発見した以降、宝石探しを最も積極的にしていたのはクロックだった。
まだ宝石の情報が世界に知られる前から本格的に宝石を捜していた。
オパールの発掘のためには、通常地面を掘り、地下にある地層から探し出す必要がある。
莫大な費用がかかる上に、見つかるかどうかは完全に運次第。
実際、人がかなり集まった現在もクラッシュが見つけたような純度の高いオパールは一個も見つかっていない。それどころか、純度の低いオパールすら見つけれてない人間が大多数なのだ。
「ココにも農業の仕事押し付けっぱなしだし、そろそろ潮時か・・・」
クロックはそう呟きながら家の近くまで歩いていった。
ふと家の前を見ると、なにやら男が一人家をじろじろと見ていた。
男の服装は荒野の街にはとても似合わない、白衣を着ていた。
クロックはその男に近づき、声をかけた。
「あの・・・何か用で?」
男はクロックのほうを向いた。
「もしや、オパールを初めて見つけた方の家族の方で?」
クロックはその男の目を見た。男は真紅の瞳であり、その色は美しいが、不気味な気配も醸し出していた。
「まぁ、そうですけど。オパールが見たいのですか?だったら持ってきますが」
クロックはそう言うと家に入ろうとした。
「いや、結構。少し気になっただけだから、では」
男はそう言うとその場から足早に去っていった。
「・・・何なんだあいつ」
クロックはその男の後姿を見ながら疑問を持った。
「宝石は幸運だけではなく不運も運んでくる。それが良い事か悪い事かは人によって違う」
いきなりクロックの耳元で男の声がした。クロックは驚きながら声のするほうを見た。
「だ、誰かと思えば南か・・・びっくりするだろ!」
「クロック、あの宝石のせいで今、バンディクー一家は有名人だ。有名になれば善人だけでなく悪人も寄ってくる。気をつけろよ」
南はクロックに向けて言った。
「さっきの人が悪人みたいな言い方だな・・・」
「さっきの野郎が善人だとも?」
「それは・・・ボクの知ったこっちゃ無い」
「ま、俺にも関係ないけどな」
クロックと南が会話をしてると、ココも農作業を終え、家に帰ってきた。
「ただいま、クロック兄ちゃん・・・あ、南さん、こんにちは」
「おかえり、ココ」
「おかえり、じゃなーい!一体いつまで宝石探しなんかしてるのよ!大体あんな小さな石ころ見つけて何がうれしいの!?あたしがどれだけしんどい思いしてるか分かってるの!?全く、クロック兄ちゃんといい、街のほとんどの男どもは宝石探しなんかに熱中しちゃって!」
ココが怒鳴りながらクロックに言った。
さっきまでココに申し訳ない気持ちを抱いていたクロックも、こうもひどく言われるとさすがに堪忍袋の緒が切れた。
「男ってのはいつだって一攫千金を狙ってるんだよ。女には分からないと思うけど、男は常にロマンを追ってるんだ!」
「ロマンって、馬鹿馬鹿しい!大体外部の人間を呼ぶために宝石の話を広めたのに、住民が宝石に熱中してどうするのよ!」
南は二人の口喧嘩を見て、呆然としてしまった。
「うるさい!ボクたちが熱中して何が悪い、なぁ、南!」
南はいきなり話題が振られたのでなんて返せばいいか分からなかった。
「・・・おっと、もうこんな時間だ。俺は帰るぜ。またな」
南はそう吐き捨てると急いでその場を後にした。

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