レースクイーンの恋〜あんなヒゲ親父、大っ嫌いっ!〜


風鈴かなでさん作

第3レース 懐かしきは思い出と共に

「はあ‥‥」

私がここで働き始めてから、1週間。

すっかり、ここの生活にも慣れたようだった。

‥‥でも正直、仕事のほうはヒマで仕方がない。

イスに座り、ただパソコンのモニタを眺めているだけ。

もう、あの充実した日々は帰ってこないのかしら‥‥。


多額な給料をもらえるとしても、なんとなく‥‥ 楽をして手に入れるというのは心に引っかかった。

「それで、いいのかな‥‥。」

ふと、疑問に思う。

「アイツに頼んでみようかな‥‥」

アイツというのは、もちろんコルテックスのこと。

「このままじゃ、絶対つまんないもんね‥‥。」

‥‥よし! 考えるよりまず行動よ、わたし!

まずは、あのエロ親父をとっちめてやるんだから!






「おいっ! エロ親父!」

私は社長室の扉を蹴り倒して中に進入する。

「‥‥!? なんだ、メグミ‥‥。」

「"なんだ"じゃないッ! わたし、すっごくヒマなんだけどっ!」

日常で思っていたことを、ひたすらあの男にぶつけていく。

「だいたいね、給料のお金はどこから出てるのよ?」

「そんなことはどうでもいいわ! ‥‥そうだなあ、せっかくだからワシの部屋でも見ていかないかね。」

「はあ?」

あの男から出てきたのは、とんでもない言葉だった。

少なくとも、わたしの予想からは斜め45度だ。

‥‥いや、90度ぐらいかな。

って! それって斜めじゃないじゃん‥‥。

などという一人漫才を脳内で行っていると、コルテックスが席を立った。

「ほら。 見てくれないか‥‥この写真。」

そうして、コルテックスは棚に置いてあった写真入れを取り出してくる。


「これは‥‥?」

写真に写っていたのは、小さな女の子と幼いコルテックスのようだった。

2人なかよく、手を繋いでいる。

「ワシの初恋だ。 ‥‥かなわなかったがな。」

「はつこい‥‥。」

まさか、エロ親父からそんな言葉が出るなんて。

「これは、ワシがまだ学生の頃撮った写真でな。」

「懐かしいわ‥‥ 今頃、どうしているかなあ‥‥。」

そう話すコルテックスの表情は、どこか寂しげで‥‥

今まで私が見ていた彼の顔とは、全く違うものだった。

それだけ‥‥ 初恋の人が、好きだったのかな。

このオヤジにも、人を愛するっていう気持ちがあるのかな‥‥。


わたしは‥‥?

わたしもムカシ、まだ若かった頃に恋をしたことがある。

でも、結果は‥‥   ダメだった。

若いうちって、どうしても相手に自分の理想を投影しているだけな気がする。

まだ若いから‥‥ 本当の恋愛を知らないから‥‥

でも、コルテックスは‥‥

今でも、愛し続けてるんだ‥‥ その、初恋の人を。

そう思うと、わたしなんかよりずっと‥‥ あいつのほうがオトナじゃない。

わたしは‥‥



「ほら。 これが彼女との約束の印だ。」

コルテックスは再び棚の上に手を伸ばし、その上にあった物を私に見せてくれた。

「バッジ‥‥?」

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